蝉が死んだ | ソラのハジマリ

蝉が死んだ

蝉が、ぼたり。と落ちた。
随分な質量を感じさせる音であった。
草むらに落ちたので、しばらくは姿を見せなかった。
しかししばしば、ぱたばたとも、じりじりともつかない音を立てた。
15分程すると、草むらから這い出し、仰向けになってもがいた。
踏み固められた土の上でもがいた。
引っ繰り返してやろうとサンダルの爪先でそっと蹴ってみる。
バタバタと暴れながら俯せになり、また暴れて仰向けになる。
仰向けになって尚、俯せなろうと暴れる。
人差し指でそうっとつっついて、俯せにするとジリ、ジリ、と前進する。
前進しながら時折暴れ、ついに仰向けになった。
しばらく眺めていた。
もう、ひっくり返る元気はないようだった。

しばらく手足をばたつかせていた。
時折羽も動かした。
動きはだんだん小さくなり、止まった。
壱時間くらい経った頃だった。

蝉の寿命は7日、蝉の1日は人の10年位だろう。
24分の10年を、蝉はもがいて、足掻いて終えた。
蝉は、死んだ。
私はただ、見ていた。
私は、そうして見殺しにした。
蝉はおそらく寿命を全うして、死んだ。